2018年・独占禁止法“八”大ニュース (弁護士 野田 学)

 今回、事務所のホームページに掲載する記事の執筆を担当するにあたり、独占禁止法等に関連した昨年一年のトピックを簡潔に振り返ることのできるような記事を書こうと思い立ったところ、せっかくであれば東京“八”丁堀法律事務所らしく、「独占禁止法“八”大ニュース」として執筆しようと思うに至った次第です。
 「八大」を名乗ってはいるものの、ニュースの選定基準は、単に執筆者が関心を寄せたというにすぎないものであることをご了承ください。なお、紹介順は時系列順です。

1. 「人材と競争政策に関する検討会」報告書(平成30年2月15日)

 平成30年2月15日、公正取引委員会は、「人材と競争政策に関する検討会」報告書を公表しました。
 公正取引委員会は、平成29年8月以降、我が国における個人の働き方の多様化、広義のフリーランス・雇用的自営の割合の増加、シェアリングエコノミーに関する市場拡大の予想等を背景に、競争政策研究センター(CPRC)内に「人材と競争政策に関する検討会」を設置し、人材の獲得をめぐる競争に対する独占禁止法の適用関係及び適用の考え方を理論的に整理するための会議を開催してきました。「人材と競争政策に関する検討会」報告書は、同検討会における議論を経て、取りまとめられたものです。
 同報告書は、個人として働く者(代表的にはフリーランス。システムエンジニア、プログラマー、IT技術者、記者、編集者、ライター、アニメータ、デザイナー、コンサルタント、スポーツ選手、芸能人等を含む。)の獲得をめぐる独占禁止法上の考え方を整理したものとされ、複数の発注者(使用者)が共同して、個人として働く者の移籍・転職を制限する内容を取り決める行為や、秘密保持義務、競業避止義務、専属義務、役務提供に伴う成果物の利用等の制限、事実と異なる取引条件を提示する行為等に対する独占禁止法上の考え方が示されており、実務に及ぼす影響も大きいと考えられます。
 また、公正取引委員会は、スポーツ分野における移籍制限ルールの実態に関する情報提供を呼び掛けています。

参考:公正取引委員会ホームページ

2.リニア談合事件(平成30年3月23日)

 東海旅客鉄道株式会社(JR東海)が発注するリニア中央新幹線の建設工事をめぐるいわゆるリニア談合事件で、平成30年3月23日、東京地検特捜部は、大手ゼネコン4社と、逮捕された会社担当者2名を、独占禁止法違反(不当な取引制限)で東京地裁に起訴しました。
 本件についての法人2社に対する判決公判が平成30年10月22日に東京地裁で開かれ、罰金2億円及び1億8千万円の有罪判決がそれぞれ言い渡されました。残る2社及び2名については公判前整理手続が行われており、争う方針を示しているとの報道がされています。

3.日本版司法取引の導入(平成30年6月1日)

 平成30年6月1日から、改正刑事訴訟法が施行され、「証拠収集等への協力及び訴追に関する合意制度」(いわゆる日本版司法取引)が導入されました(刑事訴訟法第350条の2以下)。
 同制度は、一定の財政経済犯罪等の「特定犯罪」につき、弁護人の同意の下、検察官と被疑者・被告人との間で、被疑者・被告人は他人の犯罪事実を明らかにするための供述、証拠の提出等の協力を行い、検察官は被疑・被告事件につき不起訴処分や軽い求刑等をする、といった内容の合意ができるようにするものです。
 独占禁止法に違反する罪(カルテル、入札談合等)となる事件も、合意制度の対象となる「特定犯罪」に含まれます(刑事訴訟法第350条の2第2項第3号)。

4.アップル・インクに対する独占禁止法違反被疑事件の審査終了(平成30年7月11日)

 平成30年7月11日、公正取引委員会は、アップル・インクに対する独占禁止法被疑事件の審査を終了したことを公表しました。
 公正取引委員会は、平成28年10月以降、Apple Japan合同会社(以下「Apple Japan」)が、大手携帯通信事業3社との間の契約に基づき、@Apple Japanに注文するiPhoneの数量、AiPhoneの利用者に提供する電気通信役務の料金プラン、BiPhoneの利用者から下取りしたiPhone、CiPhoneを購入する利用者に提供する端末購入補助について、大手携帯通信事業3社の事業活動を制限している(独占禁止法第19条・不公正な取引方法第12項〔拘束条件付取引〕)疑いがあったとして、審査を行ってきたものであるところ、審査の過程において、アップル側から契約の一部を改定するとの申出がなされ、上記の疑いが解消されるものと認められたこと等から、本件審査を終了したとのことです。
 本件は、携帯通信事業に関する競争のあり方に関する事例であるということに加え(なお、公正取引委員会はこれまでにも平成28年8月2日付け「携帯電話市場における競争政策上の課題について」を公表し、平成30年6月28日にはそのフォローアップにあたる平成30年度調査の報告書を公表してきました。)、後記「8」の確約手続施行前ではあるものの、当事者の申し出を受けて公正取引委員会が審査を終了させることとした一事例でもあります。

参考:公正取引委員会ホームページ

5.株式会社ふくおかフィナンシャルグループによる株式会社十八銀行の株式取得に関する審査結果について(平成30年8月24日)

 平成30年8月24日、公正取引委員会は、長崎県に本店を置き銀行業を営む親和銀行等を子会社に有する株式会社ふくおかフィナンシャルグループ(FFG)による、株式会社十八銀行の株式取得に関する企業結合審査の結果を公表しました。
 本件の経緯を簡単にご紹介すると、平成28年6月、FFGは、同業を営む十八銀行の株式につき、議決権の50%を超えて取得することを計画し、独占禁止法の規定に基づく計画届出書を公正取引委員会に提出しました。公正取引委員会は、平成28年7月8日、FFGに対し報告等の要請を行い、いわゆる第2次審査を開始しました。
 本件で公正取引委員会は、第2次審査の早い段階において、本件統合が事業性貸出しの分野における競争を実質的に制限することとなるおそれがある旨の指摘を行い、当事会社においても問題解消措置の検討が行われてきましたが、当事会社から有効な問題解消措置の提示がないとして、審査が続いていました(長崎県内の需要者を対象としたアンケート調査は2回にわたり行われ、競争事業者や需要者等からのヒアリング等も実施されました。)。
 平成30年8月24日、公正取引委員会は、FFG及び十八銀行が申し出た問題解消措置を講じることを前提とすれば、一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと認められたので、FFGに対し、排除措置命令を行わない旨の通知を行い、本件審査を終了したと公表しました。
 当該問題解消措置は、@債権譲渡(事業性貸出しに係る債権のうち、合計1千億円弱相当について、原則クロージング時までに他の金融機関に対して譲渡する等)、A金利等のモニタリング(不当な金利の引上げが生じることがないよう、個々の貸出しを実行する前に正当な理由なく金利が上昇していないか確認し、正当な理由がない場合には金利の見直しを行う等)、B定期報告(@Aの実施状況について公正取引委員会に対して定期的に報告する。)の3点でした。

参考:公正取引委員会ホームページ

6.欧州委員会がグーグルに対して43億4000万ユーロの制裁金(平成30年7月18日)

 欧州連合(EU)の欧州委員会は、平成30年7月18日、米アルファベット傘下のグーグル社に対し、43億4000万ユーロ(約5700億円)の制裁金を支払うよう命じました。
 グーグル社が、基本ソフト(OS)である「アンドロイド」を使う携帯端末に、自社の検索・閲覧ソフトである「クローム」をプリインストール(抱き合わせ)して搭載するよう求めるなど、自社のサービスを不当に優遇し、EU競争法(独占禁止法)に違反したと判断したものです。欧州委員会による独占禁止法違反を巡る単独企業への制裁金では過去最高額となります。
 同年10月9日、グーグル社は、当該制裁金の支払いを命じられたことを不服として、欧州司法裁判所に提訴したことを明らかにしました。

参考:公正取引委員会ホームページ

7.プラットフォーマー型ビジネスの台頭に対応したルール整備の基本原則(平成30年12月18日)

 平成30年12月18日、経済産業省、公正取引委員会及び総務省は、「プラットフォーマー型ビジネスの台頭に対応したルール整備の基本原則」を策定しました。
 平成30年6月に閣議決定された「未来投資戦略2018」を踏まえ、経済産業省、公正取引委員会及び総務省は、競争政策、情報政策、消費者政策等、多様な知見を有する学識経験者等からなる「デジタル・プラットフォーマー(※)を巡る取引環境整備に関する検討会」を同年7月10日に設置し、調査・検討を進めてきました。
 同年12月12日、同検討会において取りまとめた中間論点整理が公表され、これを踏まえ、同月18日、経済産業省、公正取引委員会及び総務省は、プラットフォーマー型ビジネスの台頭に対応したルール整備の基本原則を策定しました。
 当該基本原則の中では、デジタル・プラットフォーマーが拡大し、独占化・寡占化を果たす傾向にあることに鑑みると、事後規制としての競争法の執行は重要性を持つため、デジタル市場の特性を踏まえた取組を進める必要があるとした上で、たとえば、データやイノベーションを考慮した企業結合審査や、サービスの対価として自らに関連するデータを提供する消費者との関係での優越的地位の濫用規制の適用等、デジタル市場における公正かつ自由な競争を確保するための独占禁止法の運用や関連する制度の在り方を検討する等のことが述べられています。
 経済産業省、公正取引委員会及び総務省は、今後、これに沿った具体的措置を早急に進めていくこととしているところ、2019年1月、公正取引委員会は、デジタル・プラットフォーマーに関する取引実態や利用状況についての情報提供窓口を設置し、情報の提供を呼び掛けています。

(※) 2018 年12 月12 日付「デジタル・プラットフォーマーを巡る取引環境整備に関する中間論点整理」(上記URL参照。)では、「デジタル・プラットフォーマー」という用語を、デジタル・プラットフォーム(オンライン・プラットフォーム)を運営・提供する事業者(Digital Platform Operator)という意味で用いています。
また、ICT(情報通信技術)やデータを活用して第三者に「場」を提供するデジタル・プラットフォーム(オンライン・プラットフォーム)と呼ばれるサービスには、様々なものが含まれ、オンライン・ショッピング・モール、インターネット・オークション、オンライン・フリーマーケット、アプリケーション・マーケット、検索サービス、コンテンツ(映像、動画、音楽、電子書籍等)配信サービス、予約サービス、シェアリングエコノミー・プラットフォーム、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(以下「SNS」という。)、動画共有サービス、電子決済サービス等がこれにあたるとしています。

参考:公正取引委員会ホームページ

8.確約手続がスタート(平成30年12月30日)

 環太平洋パートナーシップに関する協定(TPP協定)及び環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(TPP11協定)の締結に伴い、独占禁止法が改正され、独占禁止法の違反の疑いについて公正取引委員会と事業者との間の合意により自主的に解決するための手続(以下「確約手続」)が導入されました(平成30年12月30日施行)。同制度は、競争上の問題の早期是正や、公正取引委員会と事業者が協調的に問題解決を行う領域を拡大し独占禁止法の効率的かつ効果的な執行に資するものとされています。
 また、公正取引委員会は、これに先立って平成29年1月19日に「公正取引委員会の確約手続に関する規則」の制定、平成30年9月26日に「確約手続に関する対応方針」の策定及び「企業結合手続に関する対応方針」の一部改定を行っており、これらも確約手続とあわせて施行・適用されています。
 具体的な手続の流れですが、まず、公正取引委員会は、独占禁止法違反被疑事件の調査を開始した後、公正かつ自由な競争の促進を図る上で必要があると認めるときは、独占禁止法の規定に違反する疑いのある行為の概要・法令の条項を当該事業者に通知します。当該通知から60日以内に事業者が確約計画を自主的に作成・申請し、公正取引委員会がこれを認定したときは、排除措置命令・課徴金納付命令は行われません(独占禁止法第48条の2〜第48条の9)。
 確約手続については、公正取引委員会が確約手続通知を行う前であっても、調査を受けている事業者はいつでも、公正取引委員会に対して、調査を受けている行為について確約手続の対象となるかどうかを確認したり、確約手続に付すことを希望する旨を申し出たりするなどの相談ができるとされており(上記確約手続に関する対応方針3参照。)、確約手続を利用する場合は積極的に活用すべきです。
 その他確約手続の詳細については、確約手続(確約制度)の概要とポイントをご覧ください。

参考:公正取引委員会ホームページ

平成31年1月記

執筆担当者:弁護士 野田 学
略歴:2009年弁護士登録、当事務所入所。2015年から、公正取引委員会事務総局審査局訟務官付の任期付公務員として、主に審判・訴訟対応、審査業務等を担当。2018年より当事務所に復帰し、独占禁止法、下請法等を含む企業法務に関する業務を行う。