「グレーゾーン解消制度」と弁護士によるサポート 〜新事業を安心してスタートするために (弁護士 白石紘一)

 「グレーゾーン解消制度」というものをご存知でしょうか。

 グレーゾーン解消制度とは、事業者が新事業を行う際に、具体的な事業計画に即してあらかじめ規制の適用の有無や解釈を確認できる制度です(産業競争力強化法第9条)。端的に言えば、新しくやろうとしているビジネスやサービスの適法性を確認できる制度ということになります。産業競争力強化法の改正により、平成26年1月からスタートしました。制度開始当初は、なかなか利用が伸びなかったようですが、近時、利用数が増加傾向にあるようです。
 私自身、経済産業省に任期付職員として勤務していた際に、本制度に関連した業務を行っており、本制度の具体的な進め方や活用方法を把握しているため、弁護士によるサポートの有用性も含め、簡単にご紹介させていただきます。

1 グレーゾーン解消制度について
 日々どこかで新しいビジネスやサービスが検討され、立ち上げられていますが、そういった新しいビジネス等と、既存の規制(法律)との間に微妙な緊張関係が生じることは、ままあります。特に、規制が設けられた際には想定されていなかった新しいビジネス等の場合は、そもそも当該規制の適用対象なのか否か、適用対象になるとしてこれに適合しているのか否か等が、一層不明確になりがちです。
 新しいビジネス等は、これまで誰も(立法者も)想像・想定していなかった事業分野・事業形態(その意味での“グレーゾーン”)から生まれることが多く、むしろそこを狙って踏み込んでいってこそ新事業としての価値があるとも言えますが、他方で、事業として本格化させていくフェーズに入ってから、規制に抵触する可能性が発見されると、一気に事業がストップしてしまいかねません。また、営業活動をした際に、客先から法的な懸念を示されたのに対して、説得的な見解を示すことができず、結果として顧客層が広がらない、ということもあります。
 そこで、新しいビジネスやサービスについて、事前に、抵触可能性のある規制を所管する省庁に問い合わせ、公的な見解、すなわち“役所のお墨付き”を得ることのできる制度が、グレーゾーン解消制度です。
 制度を利用する際の大体の流れは、以下の図のとおりです。「事業所管大臣」は、多くの場合経済産業大臣であるため、事業者は、まず経済産業省に問い合わせ、経済産業省から規制所管省庁(例えば、労働基準法であれば、厚生労働省)に照会してもらい、規制所管省庁から回答を得る、という流れになります。
 その他、細かな点は、経済産業省が出している手引きをご覧いただければと思います。
 (参考:http://www.hkd.meti.go.jp/hokii/tokurei_grayzone/tebiki.pdf#page=20

2 グレーゾーン解消制度の利用例
 グレーゾーン解消制度の利用実績は、経済産業省のホームページでまとめられています(参考:http://www.meti.go.jp/policy/jigyou_saisei/kyousouryoku_kyouka/shinjigyo-kaitakuseidosuishin/result/gray_zone.html)。
 ジャンルは多岐にわたりますが、例えば以下のようなものがあります。

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照会内容:研修目的で他の企業に従業員を送り出す行為が、許可等を必要とする職安法上の「労働者供給事業」及び派遣法上の「労働者派遣事業」に該当するか。
→回答(厚生労働省):送り出し行為が業として行われるものではないという前提であれば、該当しない

A

照会内容:簡易血液検査サービスにおいて、利用者が自ら採血することや、事業者がその血液について検査し、その結果を通知することが、医師にのみ認められている医師法上の「医業」に該当するか。
→回答(厚生労働省):いずれも該当しない。

B

照会内容:自動車において、運転者の運転継続が困難になった際に、路肩等に停止することを可能とする緊急路肩停止システムについて、道路運送車両法に基づく保安基準に該当するか、また、該当する場合に、適合しているか。
→回答(国土交通省):保安基準に規定する装置に該当し、また、適合している。

C

照会内容:空き家を所有しその賃貸を希望する者と、空き家を賃借したい者からそれぞれ登録を受け、空き家所有者の情報と賃借希望者の情報を提供する事業が、免許等を必要とする宅地建物取引業法上の「宅地建物取引業」に該当するか。
→回答(国土交通省):照会事業者が独自に取得した物件情報を登録するものではない等の前提のもとでは、該当しない。

D

照会内容:旅行業者が月額定額アプリにおいてバスツアーの空席案内等をするに際して、同業者が行うアプリ上での代金等の表示が、旅行業法が定める「広告」に該当し、また、該当する場合に、内容は問題ないか。
→回答(観光庁):「広告」に該当し、また、内容は問題ない。

E

照会内容:閉店されたゲームセンター等に中古パチンコ遊技機等を設置し、インターネットを介して遠隔操作させることにより客に遊戯させることが、許可等を必要とする、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律上の「風俗営業」(ゲームセンター等の営業)に該当するか。
→回答(国家公安委員会):店舗内で遊戯させるものではないことから、該当しない。

3 グレーゾーン解消制度の有用性
 このように、グレーゾーン解消制度を利用すると、新事業の適法性について規制所管省庁の“お墨付き”をもらうことができます。それのみで十分に価値があるのですが、グレーゾーン解消制度の有用性をもう少し敷衍すると、大きくは2つが挙げられると思います。
 1つ目は、正式な照会書を提出する前に、事業所管省庁のサポートのもと、規制所管省庁から詳細かつ丁寧な見解を得ることができるため、それに応じて、事業計画や(予定)照会内容を変更・修正することも、場合によっては照会自体を行わないことも可能であるという点です。いわゆる“一発勝負”をしないで済みますし、場合によっては、具体的にどのような点について “違法性の疑い”があるのかを確認することもできますので、新事業の継続可否又は変更の判断にあたっては、大いに役立ちます。
 2つ目は、新事業そのもののみならず、「これに関連する事業活動」についても照会が可能であるとともに、解釈適用の照会が可能である法令の範囲がほぼ無制限であるという点です。例えば、上記利用例のCやEは、照会者自らが行おうとする新事業について、免許等を必要とする行為に該当するか否かが照会されたものですが、Aにおいては、照会者(サービス提供事業者)自身のみならず「利用者」(顧客)が行う行為について、医業への該当性が照会されています(「これに関連する事業活動」)。このように、「このサービスを利用すると、(サービス提供事業者はともかくとして)自分が違反に問われるのではないか?」といった利用者側の懸念等も払しょくすることができるのです。また、BやDにおいて照会されているとおり、許認可等に直接に関係する法令・条文のみならず、個別具体的な規制にかかる法令・条文の解釈・適用関係も含めて、規制全般についてほぼ限定なく照会することが可能です。相当に幅広く、柔軟に利用できる制度といえるでしょう。
 なお、事業活動に関係する具体的行為が特定の法令の規定の適用対象かどうかを確認する制度として、従前から、法令適用事前確認手続(いわゆるノーアクションレター制度)があります。これとグレーゾーン解消制度との違いについて、同制度設立時の国会答弁においては、(1)前者では、照会できる条文が、許認可や行政処分に係る条文に限定されているのに対し、後者では、一切制限がない、(2)前者では、事業者が規制所管省庁そのものに問合せをするという建付けであるのに対し、後者では、事業所管省庁を通じて規制所管省庁に問い合わせることとされており、両省庁が一緒になって取り組んでいくので、より懇切丁寧、という2点が挙げられていました(有用性として挙げた上記の2つの内容と整合するところです。)。グレーゾーン解消制度は、ノーアクションレター制度の「進化形」という位置づけとのことです。
(参考:http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/sangiin/185/0063/18511280063007a.html

4 弁護士によるサポートの有用性
 グレーゾーン解消制度は、弁護士によるサポートを受けずとも利用可能です。事業所管省庁(基本的に経済産業省)に問い合わせれば、照会書の記載方法を含め指導・助言をしてもらえますし、規制所管省庁の見解なども教えてくれます。
 もっとも、経済産業省で制度に携わっていたときの経験等を踏まえますと、グレーゾーン解消制度の利用に当たっては、以下のような点において、弁護士によるサポートを受けることも有用と考えられます。

(1)そもそも規制への該当性確認
 まず、新事業が、数多ある法令・条文等のいずれとの関係で問題が生じうるかを調べ上げるのは、容易ではありません。もちろん、見込顧客からの問い合わせ等を受けて発覚することもありますが、万全を期す必要がある場合には、弁護士に確認することが有用です。また、弁護士への事前確認の結果、そもそも照会自体必要ない(明らかに適法、又は明らかに違法等)ということが判明することもあり得ますし、いずれにしてもどういった回答を得られるかについてある程度の見通しを立てることができます。
 なお、グレーゾーン解消制度は、基本的には照会した範囲でしか回答を得られません。したがって、照会した法律との関係では適法であることを確認できても、他の法律との関係では(実は)問題が残っているということもあり得ます。新事業活動について、その時点で運用されている全ての法令に基づく規制に照らし「合法」であることを確認する制度ではないことに留意する必要があります。

(2)照会者側からの説得的な見解の提示
 照会をするに際しては、単に新事業の内容のみを規制所管省庁に伝えるのではなく、「新事業活動における何について確認したいのか、また、規制の根拠となる法令のどの部分の解釈が明らかでないのか、確認事項として明確に記載してください。それに続いて、自己の見解を記載してください。」、「自己の見解の記載に当たっては、可能であれば、法令の文言や規制官庁が示している逐条解説での見解等を参考に、論理的に説明できるとよい。」とされています(照会書様式記入例より。)。すなわち、ある程度詳細に、照会者としての法的見解を説明することが求められており、ここにおいて弁護士を活用するメリットがあります。
 もちろん、照会者の見解に規制所管省庁が拘束されるわけではありませんが、ここで法的観点から説得的な説明ができることは、有益な回答・見解を得るために重要といえるでしょう。

(3)事業計画修正等の方向性に関する助言
 規制所管省庁からの見解は、単に規制への該当性の有無等のみならず、「○○の部分が△△という問題を生じさせる可能性がある」、「少なくとも××という取組みがなされている必要がある」といった、照会内容(事業計画)に即した具体的な指摘も含まれます。当該指摘を踏まえて、どのように照会内容(事業計画)を修正するべきか、あるいは従前どおりで問題ない旨の補足説明を行うか、さらには照会自体を取り止めるか、といった点を判断することは、決して容易ではありません。弁護士のサポートがあれば、それらについて、規制等の具体的内容も踏まえた助言を得ることが可能です。

(4)スピード感
 これから立ち上げようとする新事業について確認を得ようとする以上、回答や見解を得るまでの時間は、なるべく短縮できることが望ましいといえるでしょう。この点、(1)〜(3)で挙げたような諸点について、弁護士のサポートがあれば、より迅速な対応が可能となります。

5 規制改革にかかるその他の制度
 以上、グレーゾーン解消制度について解説しましたが、「企業単位の規制改革」にかかる制度として、その他に2つの制度が産業競争力強化法に設けられています。
 1つ目は、プロジェクト型「規制のサンドボックス」と呼ばれるものです。AI、IoT、ブロックチェーン等の革新的な技術について、現行規制に抵触はしている場合であっても、その実用化の可能性を検証し、実証により得られたデータを用いて、規制改革につなげる制度です。
 2つ目は、新事業特例制度と呼ばれるものです。新事業活動を行おうとする事業者が、その支障となる規制について“特例措置”を提案し、安全性等の確保を条件として、「企業単位」で、具体的な事業計画に即して、規制の特例措置の適用を認める制度です。限定的に規制を緩和し、その範囲で新事業を行うことになります。
 (詳しくはこちら:http://www.meti.go.jp/policy/jigyou_saisei/kyousouryoku_kyouka/shinjigyo-kaitakuseidosuishin/

 行政の“お墨付き”を得て、憂いなく新事業を進めるために、グレーゾーン解消制度は非常に有用な制度です。上記の新事業特例制度等を含めて、積極的に利用されるとよいのではないでしょうか。

(平成30年11月記)